大判例

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東京高等裁判所 昭和28年(う)1023号 判決

被告人 永瀬進一 外二名

〔抄 録〕

一、被告人永瀬の弁護人Aの論旨第一点について。

原判示八の事実に対応する昭和二十六年十二月二十五日附起訴状記載公訴事実の八は所論引用のとおりで、昭和二十六年五月二十五日足利市通三丁目株式会社進光商店創立事務所に於て中村一郎から黒サージ合計三十本を騙取したとの事実を起訴したのである。然るに原判決は判示八に於て右五月二十五日中村一郎より黒サージ十一本を騙取した事実を認定した以外になお同年六月十二日頃前同所に於て前記中村一郎より黒サージ二十本を騙取した事実を認定しているのであり、その欺罔方法においても五月二十五日頃のそれと類似してはいるが別個の欺罔方法を施用した事実を判示していること明らかである、してみれば原判示八事実の前段と後段とでは、被害者こそ同一人であり、犯罪の場所も変らないけれど、犯罪の日時は五月二十五日頃と六月十二日頃とでその間十八日も経過していることであるし、欺罔手段も前段後段とで互に近似した方法であることは認められるが、これを単一の欺罔方法として包括的一罪と観察することが許されないものといわなければならない。それ故公訴事実に掲げられた五月二十五日頃の黒サージ三十本の騙取という唯一個の訴因に対し五月二十五日頃黒サージ十一本の騙取の外に六月十二日頃の同二十本を騙取したとの二個の犯行を認定した原判決は審判の請求を受けない事件について判決をした違法があり、論旨はこの点理由があり、原判決は破棄を免れない。

二、同弁護人の論旨第三点の(1)について。

論旨は商法第四九一条の「預合」とは株式会社の発起人等が会社設立の際銀行から借財し、これを会社の預金として株式の払込を仮装し、同時に右借財の返済あるまで、その預金を引出さないことを約束するものをいうとの前提に立ち原判決の法令適用に誤があると主張する。しかしいわゆる「預合」とは所論設例の場合だけではなく、株式会社の発起人等が払込を仮装するために為した一切の欺装行為中発起人等が株式払込を取扱う銀行、信託会社等の金融機関と通謀して為されたものを指称すると解するのが相当である。今本件についてみれば、株式会社進光商店の株式払込金四十万円は横川二郎から貸与されたもので、足利銀行六丁目支店から借りたものではないが、進光商店の払込金を取扱う金融機関たる足利銀行六丁目支店の支店長塚田並びに支店長代理半田両名とも被告人永瀬の共犯者たる笹野の懇請により横川二郎に株式払込金を会社の設立登記まで一時貸与するよう斡旋し、横川の承諾の下に六丁目支店から横川の定期預金証書を担保として金四十万円を同人に貸与し、同人から更にこの四十万円を進光商店の株金払込のため一時貸与したこと前記第二点の(1)論旨に説明したとおりであるし、進光商店の設立登記が終るや直ちに被告人永瀬は前記約旨に基いて四十万円の小切手を振出し、これを以つて横川二郎に対する債務及び横川の六丁目支店に対する債務を順次決済したことも上記証拠により明白である。してみれば本件四十万円は払込金といつても一時的名目的なものに過ぎず、当初から正規の払込たる実質を具えていないものであるから、商法所定の正規の払込があつたとはいえず、単なる払込を仮装するための手段であるとしなければならないと同時に、六丁目支店長塚田、同支店長代理半田の両名はいずれも、六丁目支店の進光商店別段預金口座に入つた右四十万円は進光商店設立登記完了まで一時貸与されただけで設立登記完了後直ちに返済されねばならぬことを熟知していたのはもとより、かかる払込を仮装する行為を実現するについて笹野を介し、設立発起人たる被告人永瀬進一らと通謀したものと認定することができる。従つて被告人永瀬の右所為は商法第四九一条前段のいわゆる「預合」というに該当し、(従つて同被告人と通謀して前記所為をした被告人塚田、半田両名には同条後段の預合に応じたとの犯罪が成立する)資金貸与が直接足利銀行六丁目支店と被告人永瀬との間に直接為されたと否とを敢て問うまでもないし、論旨は独自の見解として採用できない。

なお論旨は仮に預合に該当するとしても、本件は商法改正前の所為であり、商法の一部を改正する法律施行法第四十九条によつて旧法が適用さるべきものとする。なるほど昭和二十五年法律第百六十七号によつて商法第四百九十一条についても改正があり、改正前には五年以下の懲役又は五千円以下の罰金となつていたのが改正後は五年以下の懲役又は三十万円以下の罰金に処することとなり、この改正法は昭和二十六年七月一日より施行されているのである。然るに本件預合の所為は同年六月四日以前のもので、商法の一部を改正する法律第四十九条第一項により新法施行前にした行為に対する罰則の適用はなお従前の例によるとされているから本件所為に対しては新旧比照をするまでもなく改正前の商法第四百九十一条を適用すべきである。原判決は単に商法第四百九十一条の適用あるを明らかにしているのみでそれが改正前のものか改正後のものかは不明ではあるが、原判決言渡が昭和二十八年二月二十四日であることからすれば当然改正後の同条を適用したと認められ、原判決の法律適用には誤があるといわなければならない。しかし原判決は被告人永瀬に対し「預合」罪の選択刑中懲役刑を選択処断しており、この懲役刑は改正の前後をとわず均しく五年以下の懲役と規定されているから、改正前の商法第四百九十一条を適用すべきところを誤つて改正後の同条を適用しても被告人の処断上に少しも不利益を来すわけがない。それ故前記法律適用の誤はあるが、この誤は判決に影響を及ぼすこと明らかとはいえないので論旨後段もその理由がない。

三、被告人塚田喜雄、同半田信栄両名弁護人Bの論旨第一点。同弁護人Cの論旨第一点の一、二について。

横川二郎の供述調書は昭和二十六年七月二十三日附、同月二十四日附及び同月二十七日附検察官に対する供述調書の外同月二十五日附司法警察員に対する供述調書も前記二十六日附供述調書に引用され、その内容を為すものとして夫々原審に於て刑事訴訟法第三百二十一条第一項第二号により証拠能力を有するものとして証拠調が為されているし、原判決の証拠に引用されているのである。所論はこの供述調書にはすべて任意性がないことを主張する。

而して横川が右供述調書を作成せられるまで既に同月二十一日から足利地区警察署に出頭し、司法警察員袖山誠から株式会社進光商店の株式払込金として横川から四十万円を貸与した事実の有無に関して取調を受け更に翌二十二日にも同様な取調が行われたと認められるから、横川は同月二十一日から同月二十六日まで連日検察官或は司法警察員の取調を受けていたわけであり、同月二十四日夕刻貸金業等の取締に関する法律違反の罪名で逮捕されたことも所論のとおりである。しかし記録に徴するに横川の右取調と略同時頃に同様足利地区警察署に於て取調を受けた被告人半田信栄及び原審相被告人笹野市作は横川の右四十万円貸与の事実について横川の供述とは全然反対の供述をしていたものであり、笹野市作の昭和二十六年七月二十一日附検察官に対する供述調書によれば「株式会社進光商店の払込に関しては足利銀行六丁目支店長塚田支店長代理半田に話し、銀行からは貸せないから他の人から借り入れるより方法がなく、横川さんに融通して貰うのがよかろうと言われ両名にすべて一任しておいた」と言うのみで同人から横川に対し直接株式払込金の融資を依頼した事実の片鱗すら窺うことができないし、被告人半田も又その頃は横川二郎は単なる名義だけの貸付人で実質的には足利銀行が笹野の依頼により株式払込金を貸与したかの供述をしたものと認められる(同人に対する昭和二十六年七月二十二日附検察官調書参照)。それ故横川が笹野市作の依頼によつて真実四十万円を足利銀行六丁目支店で定期預金証書を担保として借りこれを笹野に融通した旨供述しても取調官に信用して貰えず、そのために取調が長びいて遂には前記のとおり逮捕されるに至つたものと認められるが、このように他に反対の証拠が存することから取調官が横川の供述に不審を抱きいろいろな角度から質問してみることは職務上当然のことであり、本件取調に当つてはこのような職務上当然とすべき程度以上に常規を逸脱し拷問に類似するような取調をしたとは認められないし、横川二郎がこの取調に畏怖心を生じ精神的にも衝撃を受けたとすることもできない。或は同人が取調が永びくことからその営業上の支障を生ずることを恐れたかも判らないが、そのため取調官に迎合する陳述をしたとは認め得ず寧ろ同人が同月二十四日までは身体に拘束を受けずして取調に応じていた事実に、同人が取調官の反問追及にも屈することなく、笹野の依頼と塚田、半田等の斡旋によつて四十万円を貸与したとの真実を主張して譲らず、この供述が同人逮捕後もなお一貫して終始変更されていないことからしても、その供述が任意にされたものであること明らかといわなければならない。この事は横川を取調中に三浦副検事が偶々大声を出して怒鳴つたというようなことのみで否定し得るところではない。又横川が右四十万円貸与前に笹野市作に笹野織物株式会社設立のため五十万円を貸与したこと明白なところであるから、短期間に引続いてかかる大金を貸与する横川二郎は或は金銭貸借を業としているのではないかとの嫌疑を受けたこともやむを得ないところで、そのため貸金業等の取締に関する法律違反の罪名で逮捕されたことを以つて法の濫用であるとも認められないし、袖山誠が右逮捕状執行の際等に横川を脅迫した旨の所論事実は原審並びに当審証人袖山誠の供述に徴し当裁判所の認め得ないところである。

所論は更に右供述調書には刑事訴訟法第三百二十一条第一項第二号の前の供述を信用すべき特別の状況が存しないものであり従つて証拠能力がないと主張する。しかし横川二郎が笹野と知り合つたのは昭和二十五年十二月頃で昭和二十六年五、六月頃まで僅か一年半でその間特に親密な交際を続けたともみえず、殊に横川から笹野に貸した金が回収できなくて困つた経験もあることとて(原審第九回公判調書横川二郎証言参照)笹野に対して四十万円を無担保で貸与するほど笹野を信頼していたという横川二郎の証言はどうしても納得しかねるのみならず、殊に右四十万円が進光商店設立のために必要とされ笹野個人のために殆ど要はないこと及び横川二郎と被告人永瀬とはそれまで全然交渉のなかつた人物であることを考えるとき横川二郎が容易に四十万円の無担保貸出に応じたことは益々不可解なこととしなければならない。又他面横川二郎が笹野をそれほど信頼していたとするならば、右四十万円が足利銀行六丁目支店に保管されることを要しなかつたというべきところ、進光商店の資本金百万円をことさら二分し五十万円づつを足利銀行東町支店と同六丁目支店とに分割して預入れていることもいかなる理由によるかを合理的に説明し得ないものと認められる。

以上のとおりで横川二郎の誣告は原審に於ても当審でも甚だ不合理な点が認められるに反し同人の検察官に対する調書によれば、本件四十万円は進光商店の株式払込金として六丁目支店に保管されたものであつてしかも銀行内部の帳簿上金四十万円が移動するのみで現金四十万円が銀行以外の者の手に渡るべき性質のものでないし、貸与の期間も昭和二十六年六月二日から同月四日までの短期間でしかもその中間の六月三日は日曜日であるから、何人かがこれを他に流用しようとする虞は絶無というべきで又仮にこれを敢てしようとしても、金員を保管している六丁目支店の職員殊にその四十万円が実質的に株式払込金でないことを知つている塚田や半田の監視の眼を逃れることは不能に近いと認められるから、横川二郎はこの事実に安心して四十万円を貸すことを承諾したもので進光商店の資本金百万円を足利銀行六丁目支店と同東町支店に五十万円宛分けたのもかかる事情に基くものと推認し得るから同人が笹野に信頼を置いて無担保で四十万円を貸したとする法廷の証言よりも特に前の供述を信用すべき状況の存すること自明のところといわなければならない。

ところで上記のように認めたからといつて、横川の右供述調書の記載がすべて細部に亘る点までも真実であるとするわけではない。現に同人の右供述中銀行に対する四十万円の利息として何人から支払われているのか、或は永瀬振出の小切手が一旦現金化された事実があるか否かといつた些細な点では横川二郎の記憶違いによつてその供述が事実と相違していると認められるのであるが、それにも拘らずその本質的部分に於てはかかる瑕瑾が何等かの影響を来すとは認められない。又本件四十万円の貸与以前に同年五月二十一日頃横川から笹野市作の計画した笹野織物株式会社の株式払込金として五十万円を貸与し六丁目支店の別段口座に預金されたところ同会社は親戚の反対にあい設立されないこととなつて五十万円は横川に返還された事実が存することは所論のとおりである。しかし本件直前に事実上類似した行為が横川、笹野間に存するとしても、横川の供述が前後を彼此混同し事実と相違したものとは認められない。たとい五月二十一日笹野が塚田等の斡旋により五十万円を横川から借受けられたにしても、其の後旬日を出ずして進光商店のための四十万円の融資を依頼するに直接横川と交渉することなく、再び塚田に懇請し、塚田らから横川を説得して貰つたということが少しも不合理とは認められない。笹野市作はこの点横川と直接交渉した事実はなく、横川との交渉を初め、金銭問題は塚田、半田に一任したと述べ(同人の第一、二回検察官調書参照)被告人塚田も被告人半田も、横川、笹野間の四十万円について同人等が介在しある程度の斡旋をした事実を肯定しているところをみても所論主張の前後混同の供述とは認められず、証人横川二郎の供述は却つて信用できない。もつとも笹野市作は昭和二十六年七月二十九日附検察官に対する供述調書中で五十万円問題に関し既に塚田らを介せず直接横川に交渉したかの如く陳述しているが、右は同人の前記第一、二回検察官に対する供述調書とも反するし、真相に合致したものと認められない。

してみれば原審が右横川の供述調書を任意な供述であり、これを信用すべき特別な情況の存するものと認めたのは正当であつて所論の如き違法は認められない。論旨はそれ故その理由がない。

四、同第四点について。

しかし銀行等金融機関が行う資金の融通に関しては昭和二十一年二月十七日勅令第八十三号金融緊急措置令の施行をみたが同令第六条には「大蔵大臣ハ命令ノ定ムル所ニ依リ金融機関其ノ他大蔵大臣ノ指定スル者ニ対シ資金ノ融通ヲ制限シ又ハ禁止スルコトヲ得」と規定されているのみならず、その後昭和二十二年三月一日には同令施行規則(昭和二十一年大蔵省令第十二号)第十三条第二項の規定により金融機関資金融通準則(昭和二十二年大蔵省告示第三十七号)が施行され、銀行等金融機関の資金融通に関する規制が現存していること明らかであるが故に普通銀行等金融機関は資金融通の面に於ては金融緊急措置令による統制に関する業務を為すものと解すべく従つて、経済関係罰則ノ整備ニ関スル法律第二条にいわゆる経済統制を目的とする法令により統制に関する業務を為す会社等に該当するし、その役職員が担当する資金融通に関する事務は右統制に関する業務に相当すること当然としなければならず、従つて銀行の役職員たる者が資金融通に関する事務を担当しているとき、その職務に関し賄賂を収受すれば、同法第二条により処罰を免れないのである。金融緊急措置令が昭和二十一年二月十七日預金封鎖措置の為された当時の公布であり封鎖に関する事務を統制に関する事務としているのは所論のとおりであるが、同令の目的が預金封鎖のみであるとするのは正当でない。

又所論は同令が既に廃止されたかのように主張するが、同令は度々改正はされたが廃止されたことなく現在なおその効力を有するものである。本件に於てこれをみるに、被告人塚田、半田両名は共謀の上、横川二郎をして進光商店設立のために金員貸与を説得し、しかも六丁目支店から横川二郎に四十万円を貸与したからこそ、その四十万円が進光商店別段預金口座に振替えられて、同商店の設立登記を完了し得ることになつたこと原判示のとおりで被告人塚田、半田両名が、六丁目支店支店長又は支店長代理として横川二郎に対する金銭貸付を行つたことは正に同被告人の金融機関の職員たる者の職務であり、而してその職務に関して原判示の饗応を受けているのであるから被告人塚田、半田に対し、経済関係ノ整備ニ関スル法律第二条の違反があるものとして処罰を受けることは当然の事である。原判決の法律適用は正当であつて、論旨は理由がない。

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